とりあえず深呼吸して

アウトプットの練習用。試行錯誤中。

【読書記録】すばらしい新世界 オルダス・ハクスリー

 若いころ、自分のネガティブな感情にふりまされて、その扱いに困っていた。具体的には悲しい感情が湧き上がってくると、何も手につかない、そんな時期が続いていた。「悲しみの感情だけ、切り取って、捨てられればいいのに」と当時はよく思っていた。そんなとき「ソーマ」があれば、むちゃくちゃ頼っていたかもしれない。危ない危ない。

 「ソーマ」とは、小説「すばらしい新世界」にでてくる薬だ。多幸感などが感じられて、ドラッグやアルコールのような副作用がない。この小説の世界では、気持ちが落ちると、いとも簡単に「ソーマ」を飲み、明るい世界にトリップする。

 この小説のなかの世界では、安定性が最重要課題。安定のための均一化、条件付け(価値観の刷り込み)、一対一の愛情の否定(母子、恋人)。人間のもつ感情のもつれは、不安定を生む。だからみんなはみんなのもの。フリーセックス。赤ちゃんは母親からではなく瓶から生まれる。身分制度があるが、小さい頃から「条件づけ」され、不満を持たないように生きる。老いない。60歳で見た目はわかいまま、臓器が老化して死ぬ。

 理屈上、誰も不満を持たない世界。気分が落ち込んだら「ソーマ」を数錠。だけど、理想を突き詰めると結局はディストピアになる。

 結局のところ私も「ソーマ」を飲んでさっさと明るくなれよと言われたら、そしてそれを強制されたら、逆に「この悲しい気持ちは私だけのもの。大切にしたい」と言って拒否するんだろう、きっと。

 ダークな面、もつれた感情、不安定さを、ある程度許容してこそ、人間らしい社会なのだろう。全て完璧にキレイにしてしまったら、それは感情を捨てるという事で、人間らしい社会とは言えない。

「人間らしさとは何だろう」「人間らしく生きるって何だろう」と思いながら読み進めた。人工知能がかなり進んだ今こそ、読むべき一冊だと思った。

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